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ZoaZoa日記

気の向くままに書き散らしてゆきます。皆さまの考えるヒントになればと思います。

「君の名は。」のティアマト彗星を再考する

 以前に書いた「君の名は。」の科学・後編であるが、その後、小説版をよくみたら、彗星の諸条件および衝突時刻などが書いてあったので、さすがに部分訂正では済まないので、改めて書くことにした。全く、何を読んでいたのか我ながら情けないが、計算しなおす。「またまた無粋な事を」と思う人が大半だろうが、この作品をこれだけ沢山見に行った人がいれば、彗星に興味を持った人も少しはいるだろうから、私の妄想を楽しんでくれれば幸いである。

 

ティアマト彗星断片のスペック

 さて、改めてImpact Earth! にデータを入力して、どんな感じになるかやってみよう。基本、自分で複雑な計算はできないので、このサイトの数値を信じる事にする。

 小説版によると、糸守町に衝突した彗星の断片は

 

大きさ:直径40m  

密度:岩塊程度  

衝突速度:秒速30km 

衝突時刻:20時42分

生じたクレーターの直径:約1km  

 

他に、「衝突地点から5km離れた場所でも1秒後にはマグニチュード4.8の揺れが伝わり」「15秒後には爆風が吹き抜け」とある。

 なお、衝突時刻から逆算すると彗星分裂から約2時間後の出来事となるようである。上記の衝突速度から再計算すると、彗星本体は地球から216000kmの距離にあったと考えられる。ロシュ限界の19134kmからすればそれなりに離れた位置にあったと言うことになる。とはいえ、地球と月の距離384400kmよりも近いので、地球近傍天体である事には変わりない。

 

一応、ケイ酸塩の岩塊と言う事で密度は3g/cm3として、衝突角度は前回と同じく70°とする。

 

さて結果であるが、

 

なんと、

この条件ではクレーターができない!

上空6万mで分裂し、さらに細かくなった破片が

流れ星のように散らばるだけだ。

 

いわゆる、ツングースカ大爆発と同じパターンということになる。

 

ちょっと彗星断片の直径が小さいなあとは薄々は感じていたのだが、やはり駄目でした。ついでに言えば、この規模だと687年に一回程度の頻度で地球に落ちてくるそうだ。

 

 なお、大気圏突入時のこの彗星断片のエネルギーだが、4.52×1016ジュールということで、およそ関東大震災と同じ程度のエネルギー量である。ただし、地面に衝突した訳ではないので、上空で破片が分裂した地点から5kmの場所でどの程度の揺れが観測されるかはわからない。ただ、衝撃波によって、地面も揺れた事は充分に想定できる。ただし、「マグニチュード4.8の揺れ」とあっても、マグニチュードは揺れの尺度ではない(揺れの尺度は「震度」もしくは「ガル」)ので、実質的に何も表していない。よって、5kmの地点でどの程度の揺れが起きたかはわからない。そして、5km地点では約26秒後に秒速131mの突風が吹くようだ。

 

 

南海トラフ地震 (岩波新書)

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([し]5-1)地震イツモノート (ポプラ文庫)

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 ともあれ、小説版の条件では、(パドゥー大学のシミュレーターが正しければ)糸守町に単独でティアマト彗星の直径40mの破片が衝突する事はない。あるとすれば、分裂した多数の小さな破片のうち燃え尽きなかったものが民家や体育館の屋根を突き破ったり、相当に運の悪い人を直撃したりするくらいだろう。さて、困った。

 

条件を考えなおす

 困っていてもしょうがないので、打開策を考えてみよう。ともあれ、小説版にある条件を変えなければ、どうにもならない。しかし、数字として出ているものを変える訳にもいかない。変えるとすれば「密度」だ。密度は、あくまで「岩塊」ということでケイ酸主体の岩石を想定した。もしこれが、鉄主体の岩塊だったらどうだろうか。密度8g/cm3で計算してみよう。

 

生じるクレーターの直径:1.7km

生じるクレーターの深さ:363m

衝突地点から5kmでの爆風:15秒後に秒速206m

地上衝突時のエネルギー:4.64×1016ジュール(およそ関東大震災と同じ)

衝突地点から5kmでのメルカリ震度階級:5(気象庁震度階級では5弱~5強)

衝突頻度:1500年に一回

 

おお、今度はクレーターができる!

 

多少の数値のずれはあるが、見事にほぼ映画及び小説版の被害状況になる。彗星の周期もだいたいこんなものだろう。つまり、落ちてきたのは「鉄」(もしくは鉄と同等の密度を持つ物質)と考えるほかない。

 

 さて、ここで大きな問題がある。太陽系の起源からすると、彗星核にそれほどの量の鉄がある事は非常に考えにくいのである。鉄は宇宙全体で見ればそれほど珍しい元素ではないが、太陽系などが形成する過程では、より太陽に近い場所に局在する事になる。局在していわゆる地球型惑星(水星、金星、地球、火星)及び小惑星体(アステロイドベルト)ができたとされる。木星よりも遠い惑星の主成分は水素、水、メタン、アンモニアなどのガスであり、その他の単体や化合物は量的にはかなりマイナーな存在となる。

 彗星の多くはその木星型惑星からさらに遠方が起源と言われている。いわゆる、太陽系外縁(エッジワース・カイパーベルト)である。その領域の天体の多くは主成分が氷とされている。実際、テンペル第一彗星を間近にとらえたESA(欧州宇宙機構)の彗星探査機、ロゼッタの観測によれば、彗星の核は「凍った泥団子」のような存在形態だったらしい。凍ったというのは、水が凍っているのである。そして太陽の引力で集まらなかった塵がその氷の中に分散して混在しているのだろう。よって、彗星の核に直径40mもあるような鉄の塊があるというのは、現状では天文学的にはかなり無理のある(本来ならケイ酸塩の巨大な岩塊があるのも無理がある)話なのである。しかし、40mの鉄の塊が落ちて来ないと「君の名は。」の話は成立しないのだ。これは科学の視点で見れば、「テレビの解説の彗星の軌道が間違っている」というある意味「人為的」な問題ではなく、結構根本的な矛盾点といえる。

 

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ティアマト彗星は人工天体?

 ここからは本当に私の妄想であり、「お前の頭の中ではそうなんだろう」の世界なので、暖かい視線で読んでほしい。

 「彗星の核に直径40mの鉄の塊がある」というのは、現時点での天文学での太陽系においてはほぼありえない事である。しかし、もしこれが人工物だったらどうだろうか。自然には起きない事でも、誰かが意図的に鉄(もしくは鉄と同じ密度の物質)の塊を内包した人工天体を太陽系に設置していたとしたら。

 

 話がいきなり飛ぶが、スタートレックに出てくる宇宙艦隊には「艦隊の誓い」というものがある。どんな内容かというと「宇宙艦隊に所属する宇宙船とその乗組員は、いかなる社会に対してもその正常な発展への介入を禁止する」というものである。原則的にワープ航法を自力で開発できるまでは、観測・観察にとどめ、その文明と直に交流する事はない。そのような上位の存在を仮定してみる。

 現在の地球は当然、ワープ航法は開発されてないので、宇宙艦隊的にはまだ観察・観測段階の文明である。しかし、ある宇宙艦隊の構成メンバー(たぶん文明学者とか)が「ただ眺めていても致し方ない。ある種の文明的・文化的な実験を行いたい」と発案した。とはいっても、何か文明を極端に進化させるような物体を地球に送りつける訳にもいかない。ならば、「自然現象に見える小規模な災害(地球規模で見れば)を起こして、地球の原住民がその災厄に対してどう変化してゆくかを観察するのはどうか」と考えた。地球側としてはいい迷惑である。

 

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 そこで、1200年周期で地球の同一地点に鉄の密度の物体を落下させる人工天体を太陽系に設置したのである。民俗学的には、「1200年と言う周期で、地球の原住民がどの程度『伝承』を保持できるか」また「災厄に対してどの程度の対策を考える事が出来るか」「災厄と文明の進歩との関係は」など観察・考察ポイントが多々あろう。ただ、それだけだと伝承が途絶えた場合、同じような被害が繰り返されるだけで倫理的に問題があるだろう。

 

宇宙艦隊の巫女設定

 そこで巫女の設定である。宇宙艦隊の文明学者は、原住民になり済まして、最初の彗星断片の落下を実施する前に、落下地点周辺にいた女性のシャーマン的な存在へ「心身入れ替わりとタイムリープの能力」を与えたのである。ただし、夢うつつでしか発揮できないように設定し、明確な予知能力として認知できないように配慮した。宇宙艦隊からその特別な能力を授けられた末裔が、宮水家の女性である。

 さらに念押しに、宇宙艦隊は、タイムリープ微生物を巫女の細胞へ共生させる処置もした。その微生物はいわばミトコンドリアのような存在として母系遺伝するので、誰と結婚しようが、宮水家の巫女には代々と伝わってゆき、「心身入れ替わり・タイムリープ能力」が世代交代を経て失われない様に補強するのだ。男系のシャーマンの方にも「心身入れ替わり・タイムリープ能力」を与えたのだが、それは巫女が持つタイムリープ微生物に触れると作動するように設定した。「君の名は。」の作中では、それは「組み紐に染みついていた三葉の細胞断片」であり「三葉の唾液(当然、口腔表皮細胞が含まれる)から作った口噛み酒」である。瀧は、三葉が持っていたタイムリープ微生物に触れることで、入れ替わりの夢を見るようになり、三葉と時空を超えて出会う事が可能になる。

 宇宙艦隊の文明学者は、「地球の未成熟な科学では理解できない宇宙艦隊の科学体系をどのように受容し、文化の中に組み込み、どのようなドラマが展開してゆくのか」も観察するのである。

 

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つまり、「君の名は。」とは「宇宙艦隊の観察・実験映画」だったのだ。

以前、「神の視点で見るから瀧が馬鹿に見える」と書いたが、訂正したい。

宇宙艦隊の観察・実験映画」なので、瀧が馬鹿に見えるのである。

 

 妄想に過ぎないのは重々承知であって、新海誠監督も上記のような事はまず考えていないだろうが、個人的には上記のように考えると非常にすっきりするのである。

 

宇宙、それは最後のフロンティアなのだ。