ZoaZoa日記

気の向くままに書き散らしてゆきます。皆さまの考えるヒントになればと思います。

勝手にBGM選手権

 NHKFMの番組に「きらクラ」というものがある。クラシック音楽を様々な企画に絡めて柔らかな切り口で紹介してゆく番組であり、「おしゃべりクラシック」→「気ままにクラシック」に続く番組である。「きらクラ」とういうのが「気楽にクラシック」の略かと思えば、どうもそればかりではないらしい。似たような番組に「小澤幹夫のやわらかクラシック」というのが昔あったが、これはNHKFMではなくて、FM東京の番組である。ただし、番組の内容というか企画自体はほとんど変わらない。

 その「きらクラ」であるが、BGM選手権と言うコーナーがある。様々な詩や小説を朗読して、その朗読にしっくりくるクラシック音楽をあてるというものだ。司会のふかわりょう氏がなかなか情感を込めて朗読してくれる所にBGM候補となる音楽が投稿されてくるのだ。私自身も、だいたい「これなんかいいかな」という目星は案外とつくもので、実際に放送時に同じような曲が採用されると「皆、考えている事は一緒だなあ」と感心する。中には「これはないだろう!」と言う場合もあるが、まあ音楽に対する感性は人それぞれと言う事だろう。

 ということで、今回は私が勝手にいろいろなコミック作品に対してBGMをつけていこうと思う。勝手にBGM選手権である。別にクラシックに限らない事とするが、まあクラシックが多くになるような気がする。それだけ、クラシックの方が多様性があるからしょうがない。賛同できるものがあれば、幸いである。というか、何が幸いなのか。

 最初は、石川雅之もやしもんである。ご存じの方も多いだろうが、バクテリアや菌類、ウイルスを肉眼で識別できる農大生が主人公の発酵青春マンガである。結構長い連載で、沖縄に行ったり、ヨーロッパに行ったり、合衆国に行ったりと随分様々な事が起こるのだが、実は1年間の話という、夏目漱石の「こころ」も真っ青の充実したキャンパスライフの作品だ(別に誰も死なないが)。主人公の視点で様々な微生物がキャラクター化されて日常生活の中で飛び交うわけだが、その可愛い微生物たちの活躍のBGMがアニメでも実写でもちょっと物足りないというかほとんどない事が多い。寂しい。と言う訳で、勝手にBGMであるが、もやしもんで微生物たちがわんさか活躍する場面で、合衆国の折り目正しいミニマリストである ジョン・アダムス(John Adams )のフードゥーゼファー(HooDoo Zephyr)という曲を当てたい。微生物たちが縦横無尽に自由に飛び回っている様が手にとれるようにわかる。興味がわいたら、ミニマル・セレクションのトラック8のリンク先の試聴で確認願いたい。

 

 

もやしもんDVD-BOX【初回限定生産版】

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ライヒ、グラス&アダムズ:ミニマル・セレクション

ライヒ、グラス&アダムズ:ミニマル・セレクション

 

 

 

 二番目。高野文子「ドミトリーともきんす」。この作品は、科学と芸術とを幸福に結ぶ近年まれにみる傑作だと思う。高野文子の作品にはある意味「体温」というものがない。ないから、こういった極めて科学な内容を手品のような巧みさで表現できるのだろう。この作品で問題になっている科学の事をゼロから理詰めで理解しようとしても無駄である。しかし、どういった雰囲気のものなのか、それをそっとそよ風のように触れさせてくれるのがこの作品の良さで、考えるのでなく感じるのである。となるとBGMはあまり情動的なものでは馴染まない。というか、私はこの作品のページを開いた時から、ある音楽がずっと鳴っていたのであった。それは、パウルヒンデミット(Paul Hindemith)のピアノのためのソナタ第二番の第一楽章。このヒンデミットの乾いた感じと高野文子の作風が妙にマッチするのである。

 

 

ドミトリーともきんす

ドミトリーともきんす

 
ヒンデミット:ピアノ・ソナタ集

ヒンデミット:ピアノ・ソナタ集

 

 

 三番目。作者自身が「このBGMで描いていた」と伝えてくれる山田芳裕の「へうげものだ。といっても、作者が紹介してくれる音楽は、作品に合わせての音楽というより作業BGMにちかいものだろう。実際、作品そのもののBGMにはなりそうにない音楽ばかりである。この作品は、古田織部の生涯を相当な誇張表現とギャグを交えてドラマチックに紹介する作品である。いろいろ戦国時代の史実も出てくるが、やはり面白いのは織部なりの「ひょうげた」感性をここぞという時にプレゼンする時であろう。皆が緊張した面持ちで織部がどんな事をするのか見守っている中で、いきなり既定の常識を覆す作品(パーフォーマンス)を披露し、場は脱力する。そして、織部は意気揚々と去ってゆく。その場面では、私としては倉橋ヨエコのアルバム「婦人用」の中の「土器の歌」が高らかに鳴り響いている。この曲は、ショパンピアノソナタ3番の4楽章から始まり、途中にいきなり曲想が変わりドンドコと土器の歌的なものが流れる。戸惑っいつつも、その原初のリズムに乗ってくる頃に再びいきなりショパンのフィナーレで終わるという珍妙な作品である。そもそも古田織部の作風が前衛的かつ原初的なのだから、案外とこんな変な曲でも似合うのだ。とくに「へうげもの」では、その側面が強調されているから、なおさらである。

 

へうげもの(1) (モーニングコミックス)

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婦人用

婦人用

 

 

 

最後は、(原作)ひじかた憂峰、(作画)松森正の「湯けむりスナイパーに登場してもらおう。遠藤憲一主演でテレビドラマにもなったので、それなりにメジャーになったとは思うが、鄙びた温泉旅館に真面目に勤める元殺し屋「源さん」とその温泉街の人々の日々を淡々と愚直に、あまりに愚直に描き切る、知る人ぞ知る名作である。ほんのかすかにNHKドラマの「夢千代日記」に似たところもあるが、やはりこちらはもっとありえない設定なのだけれどもリアルと言うか、もっと生々しいと言うか、濃厚な作風である。この「湯けむりスナイパーのサウンドトラックか?」と思うほどに、作品世界とリンクしてしまうCDがある。それは、アルノ・ババジャニアン(Arno Babajanyan)作品集。ババジャニアンはアルメニアの作曲家。ハチャトリアンの仲間だ。もうこのCDに収められているどの曲を聴いても、この作品のいろいろな場面が思い浮かぶ。一応、クラシック系のCDなのだが、一曲目から「なんか買ったCD間違えた?」と思うほどに、思いきり強烈である。ほとんど昭和時代の昼ドラのムード音楽なのである。音楽をスマートにまとめようなんて気はさらさらなく、とにかく暑苦しく迫ってくるのだ。まさに、湯けむりスナイパーの世界である。なぜアルメニアの音楽と日本の鄙びた温泉街がここまでリンクしてしまうのか全く不可解だが、とりあえず私が勝手に「源さんのテーマ」と名付けている「ピアノとオーケストラの為の小品『夢』」リンクをはっておこう。湯けむりスナイパーをまだ知らない人には、「この物語の主人公の源さんは、この音楽のような人物なのだ」と強く言いたい。何かこの音楽に感じるものがあったなら、是非とも作品を読んでほしい。

 

湯けむりスナイパーDVD-BOX(5枚組)

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湯けむりスナイパー1

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作品集 ババジャニアン(p)マヴィサカリアン&アルメニア放送管弦楽団、他

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  と言う事で、四つの「勝手にBGM選手権」だった訳だが、はっきり言ってそれぞれ私個人が感じている事にすぎず、共感できる人がどれくらいいるかは全くの未知数だ。ともあれ、皆さんも自分が読んで面白いと思った作品に、「これだ!」というようなBGMを当ててみる事を勧める。「ピッタリな音楽を見つけた時の快感」は、他では得られない感覚だし、何より自分なりの音楽をあてると、その作品が何か自分のためだけにコーディネートされたような感じがして楽しいものなのだ。お試しあれ。