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ZoaZoa日記

気の向くままに書き散らしてゆきます。皆さまの考えるヒントになればと思います。

コケカキイキイと日本脳炎

 ある言葉の語感が与える印象と言うのは、想像以上に大きいものである。どのような語感がどういう印象を与えるかは、人によって違うだろうが、「意味のわからない言葉は、語感がすべてである」と言う事はほぼ言えるのではないか。語感が今一つならば、その言葉を覚える事はなかなか難しい。例えば、「モホロビチッチ不連続面」と「和達ベニオフ面」とでは、暗記しやすさと言う点で、やはりモホロビチッチ不連続面に軍配があがるのではないだろうか。あるいは、意味はちゃんとあって、正しく学習すれば推測できる言葉であっても、語感が強いと、違った意味に解釈してしまうことがある。例えば、「うさぎおいしかのやま、こぶなつりしかのかわ」を「うさぎ美味しかの山、小鮒釣り師かの川」と解釈してしまうような類である。

もういちど読む数研の高校地学

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ベスト・オブ・唱歌&抒情歌/赤とんぼ~ふるさと

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 小学校の頃、どこからか「コケカキイキイ」という言葉を聞いた。どんな意味なのか、さっぱり見当がつかない。つかないが、聞いたら、忘れようがないインパクトのある語感である。国語辞典にも載っていない。大人に聞いても誰も知らない。それ以上進展がないので、しばらくは意識にでてこなかった。ところが、中学生の頃に様々な昆虫が媒介する病気について本で読んでいたところ、ふと「コケカキイキイ」が思い出されたのである。大した根拠もなく「コケカキイキイ」は、「苔蚊(コケカ)」という特別な蚊が媒介する風土病で、その風土病に感染すると「きいきい」うめきながら苦しむ、と言う風なイメージが確立したのである。そう思うと、「コケカキイキイ」という語感は、「ツツガムシ」とか「ツェツェバエ」よりも強力なような気がした。別に、そんな事が書いてある資料は存在しないのだが、非常にマイナーな風土病であるから、世間一般に知られてないと考えれば納得する。そんな印象で、「コケカキイキイ」は風土病の名前であるようにぼんやりと思い続けていた。本来の意味を知ったのは大学を卒業してからである。

寄生虫病の話―身近な虫たちの脅威 (中公新書)

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 蚊で思い出したが、「日本脳炎」もまた、小学校低学年までは、なんとなくぼんやりと「二本農園」と言う風にイメージしていたのである。なんか、梨狩りと葡萄狩りとが同時に二本立てでできる農園のような事を想像していたのだ。蚊が媒介するとか、怖い伝染病だとかの意識はあまりなかった。そもそも周囲に発症している人はまずいないので、感染症としての実態も把握しようがない。教科書的に学ぶまでは、明確にどんなものなのかはわかってなかったと言ってもいい。ただ単純に、予防接種の時に、ささやかれる言葉から勝手にイメージを膨らませていたのである。しかし、語感で考えた場合、「にほんのうえん」というのは、いかにも長閑で平和である。これが「極東痙攣熱(きょくとうけいれんねつ)」とかであったら、語感的には実際の病原体が引き起こす症状をかなり反映するような気がする。

 

ちいさい・おおきい・よわい・つよい no.85―効果は?安全性は?ヒブ、肺炎球菌、日本脳炎、ポリオ・ワクチン

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 蚊つながりでいえば、殺虫成分の「ピレスロイド」とか「アレスリン」とかいうのも、いかにも昆虫を粛々と抹殺してゆきそうな語感である。やはり、「ス」の音が効いているのである。サ行の音が入ると、なにかその物質に殺傷能力が出てくるような気がする。「サリン」「ストリキニーネ」「ムスカリン」「シアン化ナトリウム」「テトロドトキシン」「ダイオキシン」などなど。単純に「サ行」が入っている毒物を例にあげているだけの様な気もするが、あくまで印象であって、深い意味はない。「酸素」だって、サ行じゃないかと言われればそれまでである。しかし、「ピレスロイド」が「ピレフロイド」とかなっていたら、なんか料理名のような感じになる。あるいは、「アレスリン」が「アレポリン」とかなったら、アイドルグループ名のようにしか聞こえない。やはり、それほどに語感は重要なのである。今の子供たちなら、きっとピロリ菌の「ピロリ」を勝手にNHKの教育番組に出てくる歌舞音曲担当キャラクターのような存在を想像しているような気がする。

 

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毒物雑学事典―ヘビ毒から発ガン物質まで (ブルーバックス)

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 ところで、「コケカキイキイ」であるが、これは水木しげるが創案した現代文明を警告する生物のキャラクター名である。死期の迫った老婆、捨てられた赤子、公害で弱った老猫、その猫にとりつくシラミが合体して、コケカキイキイという新たな生命体が誕生した。そして、コケカキイキイは人々の不満を食べて成長する。1970年頃の作品であるが、このインパクトのある名前自体は、実は1930年代には紙芝居の作品の中に登場しているようである。じゃあ、オリジナルはそちらにあるかといえば、たしかに「名前」自体はそうかもしれなしが、キャラクターとしては、水木作品とは全く違うものである。水木しげるの代表作である「ゲゲゲの鬼太郎」にしても、戦前から「墓場奇太郎」として、紙芝居界では定番の話を、水木が受け継ぎ、独自のキャラクターとして発展させたものだそうだ。コケカキイキイも、おそらくは水木しげるが「温故知新」の精神で、古い紙芝居の題材に新たな命を吹きこんだキャラクターなのである。それにしても、コケカキイキイの語感の無駄な鋭さは、本物の奇怪な風土病の名称にいつか活用した方が良いと思う。